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不妊治療INFERTILITY TREATMENT

体外受精

日本または世界におけるその治療法の位置づけ

1978年に卵管性不妊の患者に対し、イギリスの婦人科医のステプトーが、自然排卵周期で腹腔鏡採卵し、生理学者のエドワーズが卵子の培養を担当し世界で初めての体外受精・胚移植による妊娠・分娩に成功し、女の子が生まれました。
その業績に対し,2010年、ノーベル生理学・医学賞がエドワ−ズ名誉教授に授与されました.
日本では1983年に東北大学の鈴木雅州らが初めて成功し、それ以来、年々体外受精件数は増加し、日本産科婦人科学会報告では2015年までの累積出生数は約48万2600人、2015年の体外受精での出生児数は5万1001人と報告されています。一方2015年の日本の出生総数は約100万8000人です。計算すると出生総数の約5.0%が体外受精で生まれている事になります。これは「20人に1人が体外受精から生まれた」ということになります。

  • 年別治療周期数
    年別治療周期数
  • 年別出生児数
    年別出生児数

体外受精・胚移植法の対象者は、これ以外の医療行為によっては妊娠成立しにくい、又は、見込みがないと考えられる方で、今現在の不妊治療の最終手段として体外受精が位置づけられています。現行の婚姻制度に基づく夫婦であり、挙児を希望し、心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態であることも必要です。

適応

  1. 卵管性不妊
    両側の卵管が閉塞している方。又は、卵管の機能異常があるために体外受精以外の方法では妊娠が期待できない方。
  2. 男性不妊
    夫の乏精子症、精子無力症などで専門医による治療を受け、人工授精を何回か行っても妊娠に至らなかった方。
  3. 免疫性不妊
    女性側の精子に対する抗体(抗精子抗体)が精子の子宮頸管通過障害や受精障害を起こすことが知られており、この抗体により妊娠が成立しないと考えられる方。
  4. 原因不明不妊
    不妊原因が不明で、卵巣刺激や人工授精など積極的に不妊治療をしたにもかかわらず、妊娠に至らなかった方。また、不妊原因が特定されているが、有効と思われる治療を一定期間試みても妊娠に至らなかった方。

具体的な方法

1.卵巣刺激

体外受精を成功させるためには、良質な成熟卵を採取する必要があり、そのためにはいろいろな方法があります。最適な方法でしたいと思いますが、それが見つかるまで試行錯誤しなければならない時があります。
また、卵胞数をコントロールし、粒揃いとするために、体外受精前周期にホルモン剤を使用することがあります。

  • 自然周期法
    自らの下垂体性ホルモンの卵胞発育促進メカニズムを利用して卵胞の自然な発育を待ち、適切な時期に卵胞から卵細胞を採取する方法です。副作用—排卵誘発剤を使用しないので身体への負担がない。通院回数–少ない。経済的負担–少ない。採卵数−1〜0個(排卵していることがある)適している人−実年齢−40才以上、AMH値–低値、FSH値−高値、AF–見えない
  • 低刺激法
    • 1.クロミッド法
      月経3日目から毎日排卵誘発剤のクロミッドを内服します。この薬には卵胞の発育を促進と共に、排卵を遅らせるという作用もあります。超音波を見ながら排卵誘発剤の注射も数回し、卵胞が適切な大きさまで育った時点で、hCGの注射、あるいは点鼻薬で卵子を排卵直前まで成熟させます。
      クロミッド      
      月経周期 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
      超音波              
      排卵誘発剤の追加         hCG   排卵  

      副作用—子宮内膜が薄くなり胚移植に適さない。胚の凍結が必要。
      利点−排卵誘発剤の使用が少ないので身体への負担が少ない。
      通院回数–少ない。経済的負担–少ない。採卵数−1〜5個。
      適している人−実年齢−全年齢、AMH値–低値,高値、FSH値−正常から高値、AF–数個,多い

    • 2.フェマーラ法
      女性ホルモン合成阻害剤であるフェマーラは、閉経後乳がんの治療薬として販売されていますが、排卵誘発効果もありクロミッドのような副作用が無いので高年齢婦人や、PCOの症例に用いられております。月経3日目からフェマーラを5日間内服しその後卵胞の発育を見ながらFSH製剤を補い成熟卵胞に育て、自然排卵の危険があるので早めの採卵へ持っていきます。
      副作用—女性ホルモン合成阻害剤なのでエストロゲンが低値で排卵を抑制できない。利点−身体への負担が少ない。
      通院回数–少ない。経済的負担–少ない。採卵数−1〜5個。適している人−実年齢−40才以上、AMH値–低値,高値、FSH値−正常から高値 AF–数個,多すぎる
  • 高刺激法
    • 1.ロング法
      月経が始まる1週間前より点鼻薬を1日3回(朝,昼,夜)片方の鼻腔に噴霧し自発排卵を防ぎます。月経が始まりますと3日目から排卵誘発剤の注射(FSH/hMG)を開始し、およそ8~10日間の連続投与となります。卵胞が十分に成長すると、点鼻薬を終了し、hCGの注射後36時間で採卵となります。副作用—点鼻薬、排卵誘発剤の注射が多いので身体への負担が大きく、卵巣過剰刺激症候群が起こることがあるが,妊娠率は高い。通院回数–多い。経済的負担–多い。採卵数−3〜10個。適している人−実年齢−35才以下、AMH値–正常値、FSH値−正常値、AF–7個以上、日程調整が必要な方、排卵が早い方。
    • 2.ショート法
      月経2日目より点鼻薬を1日4回片方の鼻腔に噴霧を開始して、3日目より排卵誘発剤の注射を6から8日間毎日し、卵を育てます。点鼻薬は卵胞が十分発育するまで使います。卵胞が直径18mmを超えた時点でhCGを投与し採卵します。
      副作用—点鼻薬、排卵誘発剤の注射が多いので身体への負担が大きく、卵巣過剰刺激症候群が起こることがあるが,妊娠率は高い。当院ではこの方法が主流です。
      通院回数–多い。経済的負担–多い。採卵数−3〜10個。適している人−実年齢−35~40才、AMH値–正常値、FSH値−正常値、AF–数個。
    • 3.セトロタイド法
      月経3日目から排卵誘発剤の注射を毎日し、卵を育てます。卵胞直径が14mmを超えた時点からは自発排卵を防ぐ薬剤と排卵誘発剤を2-3日間投与します。後は上記方法と同様で卵胞が直径18mmを超えた時点でhCGを注射し2日後の採卵となります。
      副作用—排卵誘発剤の注射が多いので身体への負担が大きい。
      通院回数–多い。経済的負担–多い。採卵数−3〜10個。
      適している人−実年齢−全年齢、AMH値–正常値、FSH値−正常値、AF–数個。
FSHの自己注射について
排卵誘発のために毎日FSHの通院注射が必要になりますが、仕事や遠方のために困難な場合にはFSH(フォリスチム)の自己注射という選択があります。これはフォリスチムペンという自己注射器にFSHカートリッジを取り付け目盛りを合わせ細い注射針を装着し腹部に注射します.痛みもなく思ったより簡単に操作できます。
2.採卵
  • HCGの注射
    HMGなどで卵胞が十分に発育し成熟卵となると次は排卵です。
    午後9時にHCG5000単位の注射をします。
    それ以後は自宅で過ごします。HCG注射後約40時間で排卵が起こります。
    その前に採卵の為に来院します。HCG注射の36時間後(翌々日の朝9時)
  • 腟洗浄
    採卵時の感染を防ぐために腟内を温かい生理食塩水を流しながら、綿球でしっかりと洗います。
    腟を器具で広げての操作ですので違和感というか、なんとも言えない痛いような気持ち悪いような感覚があるようですが、少し我慢してください。
  • 採卵
    腟内を清潔にするために生理食塩水で洗浄します。卵胞が多く発育しておれば穿刺の痛みを取るためにペンタジンとセルシンという軽い静脈麻酔剤を使い麻酔します。この場合は誰か付き添いの方が必要です。 数個の卵の場合、キシロカインで穿刺部位に局所麻酔を行います。
    経腟超音波プローベに穿刺針を装着し慎重に卵胞を穿刺して採卵します。
    採卵される卵の数は排卵誘発の刺激にどれだけ卵巣が反応するかで決まります。
    1個のことも20個のこともありますが平均5個から10個の間です。
    大きく広がった卵丘細胞の中に白く光った卵細胞が見えます。
    針で穿刺しますので出血などがないように慎重に作業を進めます。
    麻酔から覚めて異常なければ2時間ほどで退院できます。
    採卵された卵子は直ちに培養液の中で培養されます。
3.媒精

採卵後、精液の処理を開始します。4から5日の禁欲期間の後朝、自宅で(または当院で)マスターベーションで精液を容器に採取します。
まず、精液中の精子の数,運動率を検査後、精液を培養液で洗い精液の液体成分を取り除き精子だけにします。その後一時間かけ培養液中に泳ぎあがってきた元気な精子を集めて培養されている卵1個あたり10万個の精子をかけます。

4.受精卵

swim upによって受精能力を獲得した精子は成熟卵のまわりにある卵丘細胞の中へ進み卵細胞を保護している透明帯を突破し、卵細胞の中へ入り受精の準備を開始します。
翌日には受精卵の中に2個の核が出現します。これは精子の核と卵子の核を表し、その後、これらは合体し受精卵となり、ここに新しい生命が誕生します。受精卵は培養液の中で培養を続けます。
しかし、採卵された全ての卵が受精するかどうかはその卵の成熟度と精子の受精能の獲得の程度で異なります。
通常の体外受精で受精卵が出来なければ顕微授精の適応になります。

5.胚発育

受精卵を新しい培養液に移し培養を続けますと、12時間後に2つの細胞に分裂し、2日目には4個の細胞になります。3日目には8細胞期胚となり、培養液を交換すると細胞分裂がどんどん進み、4日目には桑実胚に、5日目には胚盤胞に成長します。

  • 1.代替手段
    体外受精、顕微授精以外の不妊治療(タイミング療法、排卵誘発法、人工授精、腹腔鏡検査など)を実施したり、なかなか妊娠しない場合には、養子縁組も一つの選択肢です。また、東洋医学や運動療法、食事療法といった、西洋医学ではない方法を実践することで妊娠に近づくこともあります。東洋医学では、漢方薬の処方や、鍼灸で骨盤部位に血流を増やすといわれています。運動療法では、身体を活性化し基礎代謝を増加させ、成長ホルモンを分泌することにより卵巣にも好影響を与えます。やせ過ぎたり肥満は、ホルモン分泌に悪影響を与えますので、標準体重に近づけるように食事に気をつけて栄養が偏らないようにすることが必要です。サプリメントとしては、DHEAやL-アルギニンなどが卵巣、子宮に好影響があるといわれています。
  • 2.安全性の説明
    体外受精で産まれた子供に、先天性異常の可能性が自然妊娠と比べわずかに大きくなるという報告もありますが、まだ結論は出ていません。児の長期予後は、調査に着手したとの報道がありましたが、まだ結果は判明しておらず、明らかではありません。
  • 3.カウンセリング
    体外受精コ―デイネ―ターによる不妊カウンセリングを行っています。治療実施前、治療後など御希望のある時点で、カウンセリングを行います。御夫婦そろってだけでなく、夫のみ妻のみでの個別カウンセリングも可能です。御希望の方は、当クリニックの受付までお申し出ください。
  • 4.日本産科婦人科学会への報告の義務
    日本産科婦人科学会 倫理委員会 登録・調査小委員会へは、個人名が特定されない形で報告が義務化されています。
  • 5.成績の発表や学会への報告の際の個人情報の保護
    体外受精・胚移植に際して、治療成績に関する情報を、匿名性を保った上で解析し、日本産科婦人科学会への報告あるいは、各種学会での発表などを行う場合があります。体外受精・胚移植に従事する者は、守秘義務に十分留意し、個人情報の保護に努めてまいります。