体外受精で得られた胚のうち移植されなかった余剰胚を凍結保存しておくことにより、のちの周期で少量ずつ移植することができます。
凍結胚の利用によって、患者さんの負担が軽減され、採卵周期当たりの妊娠率を向上させることができます。また、1回の移植胚数を減らすことで、多胎妊娠の防止にも役立ちます。さらに、卵巣過剰刺激症候群や子宮内環境不良などの理由で新鮮胚を移植することが不適当な場合、全ての胚を保存して、その後の自然周期や外因性ホルモン投与による子宮内膜作成周期で移植することができます。
胚をそのまま氷らせたのでは胚は破壊されてしまいますので急速凍結法という方法で実施しています。この方法は胚を高濃度の凍結保護剤で処理した後にガラス化溶液に浸し手早くクライオトップといわれる胚を保持するものに乗せ直接液体窒素(-196℃)に中に投入し急速に冷却します。それをケーンと呼ばれるものに入れた後に液体窒素保存用タンク中で保存します。
凍結された胚は液体窒素中で半永久的に保存可能ですが、日本産婦人科学会の指針では生殖可能年齢までとなっております。
当院では保存期間は1年から6年までとしております。
液体窒素タンクの構造
凍結胚を融解し培養後に移植する場合、移植の日を決定することが大事になります.移植の日を決定する方法に、自然周期法とホルモン補充周期法の2通りがあります。
融解,移植の日 | 費用 | |
自然周期法 | 排卵日から固定される | 診察料 |
ホルモン補充周期法 | ある程度の余裕がある | 診察料+薬代 |
体外受精の採卵で多くの卵子が採れ、多くの良好胚が得られた場合に、移植される胚の個数は多胎妊娠の防止のため1個(場合によっては2個まで)と制限されています。残った良好胚は廃棄されずに凍結し、次回の胚移植まで保存することが可能です。また、卵巣過剰刺激症候群や子宮内環境不良などの理由で新鮮胚を移植することが不適当な場合に、全ての胚を凍結保存し、その後の自然周期や外因性ホルモン補充周期に凍結胚融解胚移植をすることで、卵巣過剰刺激症候群を回避したり子宮内環境を整備して妊娠率の向上が期待されます。
(1) 胚移植後に、妊娠につながる可能性のある受精卵(いわゆる余剰胚)が残っていた場合。
(2)子宮内膜が薄く胚移植に適さないと判断された場合。
(3)採卵数が多い、血中エストロゲン値が高いなど、卵巣過剰刺激症候群を起こす可能性が高いために、胚移植がキャンセルとなった場合。
(4)出血や感染などにより、胚移植や妊娠が身体的に高いリスクを生じさせると予想される場合。
(5)機器や施行者のトラブル、社会的理由により、胚移植がキャンセルとなった場合。
胚の凍結保存の方法は急速凍結法(ガラス化法)で実施しています。この方法は、胚を高濃度の凍結保護剤で処理した後に、ガラス化溶液に浸し、手早くクライオトップと言われる胚を保持する器具に乗せ、直接、液体窒素中(-196℃)に投入し急速に冷却し、液体窒素保存用タンク中で保存します。
凍結保存期間は凍結日から1年間となり、更新手続きが必要です。更新手続きがなされない場合には廃棄となります。最大保存期間は6年とし、それ以降凍結胚は廃棄されます。
次のいずれかに該当する場合は、期間内であってもその時点で廃棄させていただくことがあります。
①夫婦が離婚した場合
②夫婦または夫婦のどちらかが死亡、行方不明の場合
③夫婦の意思として廃棄の申し出があった場合
④年度末、更新手続きが行われなかった場合
⑤転居などにより連絡が取れない場合
⑥妻が女性の生殖年齢を超えた場合
⑦疾患などにより子宮を失った場合、妊娠・出産時に母体に重大な影響が予想される
など、移植ができないと判断した場合また、当院が何らかの理由で医療行為が行えなくなった場合、患者さんと協議を行なった上で、対処方法を検討致します。
天災などの自然災害、あるいは予測できない事態にて凍結胚の損傷、喪失した場合には、当院はその責任を負いません。当院での胚保存期間中に発生した機器等のトラブルで胚が移植できない状態となった場合は、凍結に関する料金を返金しますが、それ以上の責任は負いかねます。
実施責任者の死亡もしくは重大なる病気羅患等のため、正常な体制での診療ができない場合は、他の医師が責任者に代わり、患者様と協議させていただきます。
ガラス化法で凍結保存した胚を液体窒素タンクから取り出し、シュクロース液中で急速に加温した後に、培養液中で凍結保存液を除去します。融解胚の生存率は97%程度です。融解後、生存胚は前培養され、同期化された子宮内膜へ移植されます。
1)自然周期−月経後卵胞が自然に発育し卵胞ホルモンにより子宮内膜が次第に厚さをましてきます。なかなか卵胞が発育しない時はhMGにより卵胞の発育を促進し子宮内膜が8mmを超えると移植可能です。排卵前にhCGを注射し排卵日を特定し凍結胚と子宮内膜を同期化して融解胚移植をします。自然周期で卵胞や子宮内膜が発育しない時はホルモン補充周期となります。
2)ホルモン補充周期−月経後卵胞ホルモン剤のプレマリンを内服し、人工的に子宮内膜を厚くし8mmを超えると、黄体ホルモンの内服を開始しその日を1日目とし、3日目または5日目に凍結胚融解胚移植をします。プレマリンだけでは子宮内膜が厚くならない時は卵胞ホルモン剤の貼付剤(エストラーナ)、塗り薬(ディビゲル)などで補います。自然周期では卵胞の発育、排卵により移植日が決まり動かすことはできませんが、ホルモン補充周期では移植日はある程度自由に決めることができます。しかし、ホルモン補充周期ではホルモン剤の内服、貼付が妊娠しても数週間続きます。当院では患者様の都合により両方の周期を使い分けております。
凍結融解操作の過程で、氷晶・低温・耐凍剤に由来する障害を受ける可能性があり、融解した受精卵の全てが生命活動を回復し、良い状態で移植ができるとは限りません。
在のところ、新鮮胚移植と凍結胚移植を比較した場合、胎児発育、周産期のリスク、産科合併症、先天奇形などに関して有意差は認められず、出産した児の身体発育や精神発育は、自然妊娠児との間に差はないと報告されています。しかし、凍結胚融解胚移植で出生した子供さんの長期にわたる予後についてのしっかりした調査はなされていないので、まだはっきりわからない点もあります。